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「セラ」
 にっこり笑ったリィはうっすらと化粧をして、いつにもまして美しい。
 だがしかしシェラにとっては、この上なく美しい猛獣に牙をむかれたのと大差なかった。
「ケリーと一曲踊ってみないか?」
 言葉としては勧めだが、断れる気が全然しない。
 一蓮托生――声なき声に押される形で、今この仕儀に至っている。
「金色狼と天使はともかく、おまえさんまで女役で踊れるとはな」
 笑いを含んだ魅惑の低音は耳元。
 手を取り合い、曲にあわせてゆったりと足を運びながら囁き声で言葉を交わす。
「私はずっと女として暮らしていましたから」
 本物の女に見せるためには、抱く感情も本物である必要がある。
 こんな美丈夫と踊れれば、普通の女は有頂天だ。
 そんなわけで“セラ”はこの事態を心から楽しんでいたし、“シェラ”にとっても別段忌避すべき事でもない。
「なんでしたら男役でも踊れますが、お見せ致しましょうか。いまここで」
「その場合、俺が女役を務めるわけか?」
「もちろんです。覚えておけば役に立つかもしれませんよ?」
「……遠慮しておく」
 くつくつと笑われたところで曲が終わり、シェラは優雅に一礼してその場を離れた。
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