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実のところパピヨン発売直後からずーっと書いたり書き直したり放置したりしてるんですけどね、これ。
もうとりあえず前編だけUP。後編はいつになるやら不明です。ごめんなさいー!

以下、一度完成させたもののやっぱりボツにした没原です。内容ほとんど変わりませんが興味のある方はどうぞ~。
そしてどっちの方が面白く感じたか教えてくださると嬉しいなーなんて。何が違うのか分からない可能性もあるけれども(苦笑)

 ブラケリマ軍国境警備隊所属アダマス級駆逐艦《ブルーノ》の艦長、マルコ・サディーニ大佐は、厳格な職業軍人であった。
 陽気でおおらかな国民性を誇るブッカラ人の中にも、まれにはこのような男がいる。
 真面目で融通のきかない堅物であり、険しい表情が常態として定着しているサディーニ大佐はその日、士官休憩室において信じ難いものを目にして凍りついていた。
(な、な、なにをしているのだ、あの女!!)
 心中で絶叫したが、声は出ていない。その視線は室内に設置された大型受信機の画面に貼りついている。
 険しい峡谷の風景を背景に、派手な優男に満面の笑みで迎えられた赤毛の大女が、突き出されたマイクに向かって顔をしかめて首を振ったところだった。
『もうこりごりです。二度とあれには乗りません』
 途端沸きおこった報道陣のざわめきと、遠く響く観客席のお祭り騒ぎを律儀に拾った音声は、大佐の耳には届いていなかった。
 峻厳な岩肌と大仰な垂れ幕、会場の巨大スクリーンは赤い小型機のゴールの瞬間とコースレコードとを交互に映し出している。
(渓谷競争《キャニオン・レース》、か……?)
 常ならば、それに気付いた段階で目を逸らす。興味がないかというとまったく逆で、興味があるからこそ目を逸らすのだ。
 サディーニ大佐はブッカラ人の例に漏れず、低空競争をこよなく愛していた。不正を働く密輸業者の摘発にも自然と熱が入るというものだが、この事実を知る者は非常に少ない。
 軍人たるもの賭博などにうつつを抜かして骨抜きになるなど言語道断! という信念の下、大佐が投票券を買うのは故郷で開催される小規模な水上競争のみなのである。
 食堂やら休憩室やらで盛り上がる渓谷競争《キャニオン・レース》の話題に参加したことはないし、人前で情報誌を広げる事もなく、公共放送からはあえて目を逸らす。
 見れば面白いのは分かりきっているからだ。
 そういう訳であったから、彼がパピヨンルージュの姿を見たのはこの時が初めてだったのである。
 画面の中では、赤毛の大女が衆目の面前でディアス社長を糾弾していた。
 それは日誌に綴じて過去へ追いやったはずの、有り得べからざる小型戦闘機の操縦者の姿であった。
 言うまでもなくジャスミン・クーアである。
「どうしたよ、マルコ」
 サディーニ大佐と比較的親交の深い他艦の艦長が、顔面蒼白のサディーニ大佐に気付いて声をかけた。
「こ、ここ、この女……」
 震える指が画面を指す。
「ああ、パピヨンルージュか? ――おまえな、いまこのブッカラで彼女を知らないなんて確実にモグリだぜ?」
 新人枠を二日で片付けた大型新人だ、とか、歴代最高記録を連続更新してるんだ、とか、あのダイナマイトジョーに怪物級で勝ったんだぜ、とか、これで無傷の二十四連勝だ、とか――熱く語る同僚の台詞は、大佐の耳を素通りした。
「モンスター……クラス……」
 かろうじて耳に残った言葉を呆然と反復する。
「おうよ。そりゃあ彼女は大柄だけどな、女の身で怪物級を制したんだぜ!」
 興奮しきりの同僚の台詞は、やっぱり大佐の耳を素通りした。
 脳裏には、着陸のお手本のような動きで税関の格納庫に収まった赤い小型機の姿が映っている。
 大佐の任務はあの機を税関に引き渡した時点で終了していたし、アレがその後どうなったのかも、コレが――この女が――どこで何をしていたかも知りはしなかった。むしろ忘れてしまいたかった。
 出来ることなら綺麗さっぱり忘れ去って、常識の世界に帰りたかった。
 わずか千トンの機体に永久内熱機関《クーア・システム》と重力波エンジンと二十センチ砲を搭載し、それでいて感応頭脳を持たないという小型戦闘機――そんなものの存在し得ない、常識の世界に。
「感応頭脳がないなら一体どうやって制御しているのだ!?」
 飛ばして見せるというので《カペラ》の格納庫を出た後に、大佐は夫の方に詰め寄っている。
 返答はあっさりしたものだった。
「電算機」
「――なんだって?」
「だから、電算機」
 感応頭脳じゃなければそれしかないだろう、とでも言いたげな夫の表情まで思い出して、大佐はうめいた。
 渓谷競争《キャニオン・レース》では管制頭脳非搭載の競争《レース》も行われているのだろうと、そんなに驚かなくてもいいだろうと、そう言い放った女は画面の中で渓谷競争《キャニオン・レース》の勝利者会見を受けている。
(……そうだろうとも)
 大佐はよろりときびすを返し、興奮状態の同僚を振り切って仕官休憩室を後にした。
 そうだろうとも。
 アレこそがまさに《怪物》なのだ。
 あんなものを“愛機”と呼んで、あの女は実際に飛ばしてみせたのである。怪物級《モンスター・クラス》がなんだというのか。
 電算機で宇宙を飛べるなら、管制頭脳非搭載といえど大気圏内限定機《エアブレイン》くらい何ほどのものか。
 よろよろと壁伝いに移動するサディーニ大佐は、記憶の消去に全力を傾けていた。
 何がどうして渓谷競争《キャニオン・レース》なのかなど、考えるだけ無駄というものだ。非常識な戦闘機を操る非常識な操縦者が、なにやら非常識な事をやっているだけの話である。技量で勝利を掴むなら、それがどれほど非常識な技量であろうと大佐の職務には関係ない。
 二度と会うこともなかろうし、忘れてしまうのが一番いい――大佐は懸命に自分に言い聞かせた。報われているとは言い難かったが、ともかく彼は努力した。覚えたことを忘れまいとする受験生も真っ青な真剣さで、間逆の方向に努力した。
 しかしながら、彼の受難はむしろこれからが本番だったのである。
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